なぜ日本では水を殺菌しないといけないのか

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ミネラルウォーターの先進国であるヨーロッパが、無殺菌のまま製造することをかたくなに守っているのに対し、なぜ日本ではあくまで殺菌(除菌)することにこだわるのだろうか。

それは、日本でのミネラルウォーター市場が今日のように確立するまでの間、ミネラルウォーターはずっと、ジュースやサイダーなどと同じ「清涼飲料水の一種類」と考えられてきたからである。

日本の清涼飲料水は厚生労働省の「食品衛生法施行規則」および「食品、添加物等の規格基準」に従って生産されている。ミネラルウォーターもずっとこの基準に忠実に製造され、他の清涼飲料水と同様に殺菌処理が行われてきたのだ。

先に説明したように、日本のミネラルウォーターは1960年代にウイスキーメーカーが水割り用の水として大量生産を開始したあたりからその市場が確立した。ゆえに日本では80年代の半ばくらいまで、ミネラルウォーターといえば、パーで出されるウイスキーの水割り用の水のことだった。

それらウイスキーメーカー産のミネラルウォーターは、はとんどが工場で使われている地下水をその原水としていたが、日本の地下水にはミネラル分の少ない軟水が多く、また複数の水源の水を混ぜ合せたりもするため、ミネラルの量が一定にならない。そこでミネ
ラルを後から添加したり調整したりといった加工をするようになったわけだ。

だから平成2年(1990)に「ミネラルウォーター類の品質表示ガイドライン」が設定されるまで、日本では、ミネラルウォーターは地下水の加工品であるとしか理解されていなかった。添加をすることも、加熱処理をするのも、それまでの常識からすればあたりまえのことだったわけである。

しかし、ここで大きな問題が起きた。もし、すべてのミネラルウォーターが清涼飲料水であり、水道法の基準で製造しなければいけないとしたら、無殺菌のヨーロッパの「ナチュラルミネラルウォーター」は殺菌をしなければ販売することができないことになる。ということは輸入元は殺菌の手間や費用を負担しなくてはならない。

そうなれば販売価格にも影響してくるし、それ以前に、せっかく源泉を汚染から保護しに細心の注意をはらってボトリングした無殺菌の水が、日本に輸入されたと同時に殺菌されたのでは、その商品価値が落ちてしまう。EC(当時)側はこの厚生労働省の規制を「非
関税障壁」すなわち輸入品の市場拡大を阻む障害であると解釈し、日本政府に抗議した。

これを受けた日本政府は厚生労働省と協議し、昭和61年(1986)5月に初めて「ミネラルウォーター類の製造基準」という公式な通知を発表した。その要点は次のようなものだ。

  1. 原水は水道法第3条第2項に定める水道水の基準に適合する水でなくてはならない。
  2. 製造に関する器具および容器包装は、適当な方法で洗浄し、かっ殺菌されたものでなくてはならない。
  3. ミネラルウォーター類は、容器包装に充填し密栓または密封した後に殺菌するか、殺菌した、もしくは濾過器等で除菌した原水を自動的に容器包装に充填し密栓または密封しなくてはならない。ただし「鉱水を原水とし、泉源から直接採水したものを自動充填した後、密栓したもの」「原水が病原微生物や有害な雑菌に汚染されていず、1ミリリットルあたりの細菌数が5以下であるもの」といった基準に適合するものについては殺菌または除菌を要しない。

つまり、ミネラルウォーター類は基本的には日本の水道法の基準に則した”殺菌された水”であってはしいが、それが”泉源から直接採水した鉱水”であり”汚染されていない水”であれば、殺菌していなくても販売を認めましょうという内容である。EC側の抗議を受け入れたこの通知によって、ようやくヨーロッパの無殺菌「ナチュラルミネラルウォーター」は、輸入したそのままを販売できるようになったというわけだ。

当然、この通知は日本のミネラルウォーターにもそのまま適用されるはずである。ということは厚生労働省の見解では日本でも無殺菌(無除菌)の水を製造、販売してもかまわないことになる。

ところが、その後に登場した農林水産省のガイドラインには「無殺菌ミネラルウォーター」というカテゴリーは存在せず、濾過、沈澱及び加熱による殺菌(除菌)をした水も「ナチュラルミネラルウォーター」としてのお墨付きが与えられることになった。これが輸入品のみに例外的に無殺菌の水があり、国産に殺菌(除菌)処理を施しか水しかないという矛盾が起こっている理由である。

この厚生労働省によるミネラルウォーター類に関する法規制は、平成10年(1998)の3月に大きく改定され、より明確で具体性のあるものとなった。とりわけ、昭和61年当時の基準にあった味、臭気、濁度といった具体性に乏しい項目を削除し、泉源の環境汚染の指標として、界面活性剤、フェノール類、農薬、PCB類、鉱油、多環芳香族炭化水素の6物質を基準に加えたことは評価に値するだろう。これで農薬を散布しゴルフ場が近くにある水源のいくつかは基準を外れることになると考えられるからである。

だが、少し穿った見方をすれば、この厚生労働省の基準の改定も「ナチュラルミネラルウォーター基準の国際規格化」という新たな流れに対する、ひとつの牽制のようにも受け取れる。

実は、これまで欧州の地域規格にすぎなかったコーデックス(Codex=国際食品規格)のナチュラルミネラルウォーターの規格を、世界規模に拡大し国際規格にしようという動きが具体化してきているのだ。平成5年(1993)6月にスイスのジュネーブで行われたCAC(国際食品規格委員会=コーデックスの母体)の総会でこの問題が議題として取り上げられたのを皮切りに、欧州規格の国際化が進行している。

日本でもコーデックス委員会の動向を踏まえ、平成14年(2002)10月の厚生労働省「薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会食品規格部会」において、食品衛生法におけるミネラルウォーター類の規格基準の改正について検討を始めると発表した。

コーデックス規格は、EUの統一基準はど厳格なものではない。EU基準で定めている源泉における一般細菌の数など徹生物の問題についての具体的な数値を示していないし、水源の管理についても基準を設けるのではなく規範を示すに留まっている。だが、それで も日本のガイドラインに比べればはるかに厳しい規格である。もし、このコーデックス規格の国際化が現実に施行されたとしたら、日本では当然のことである「加熱殺菌」も「採水工場と製品化する工場が離れている」ことも見直しが求められるだろうし、国産のミネラルウォーターの多くが、現行のままでは「ナチュラルミネラルウォーター」を名乗ることが出来なくなってしまうだろう。一所懸命に企業努力をして工場に設備投資をし、殺菌処理で安全管理につとめてきた国産メーカーの水も、国際規格ではナチュラルミネラルウォーターとしては認められない可能性がある。

近い将来、日本の基準は徐々にコーデックス規格に近づいていくことが予想されるし、いずれは農林水産省の示すガイドラインも大幅な軌道修正を迫られることになるだろう。しかし、客観的に考えてコーデックス規格をそのまま日本で国際規格として施行するには
まだまだ時期尚早と思われる。ただ、あくまで個人的な希望を言えば、そろそろ日本にも厳格な環境保護に努め、無殺菌の水を供給するメーカーが現れてはしい。省庁や自治体との協力関係のもと、採水地のある森林の環境保護に取り組んでいるサントリーのような企業がもっともっと出て来てはしいものだ。 

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  4. 日本でのミネラルウォーターの歴史
    ミネラルウォーター=水割り用の水というイメージを覆したのが、昭和58年(1983)の『六甲のおいしい水』の登場である。洋酒メーカーではなく、食品メーカーである「ハウス食品」が一般家庭を対象にして発売した、この"日本初の家庭用ミネラルウォーター"の誕生は、まさに革命的な出来事であった。『六甲のおいしい水』はそのネーミングのわかりやすさ、翌59年の全国的な水不足など、様々な要因によってシェアを拡大、名水ブームの嚆矢となった。
  5. ミネラルウォーターとは?
    日本のミネラルウォーターに関するガイドラインでは、天然のままの水でなくても、その成分にミネラルをほとんど含まない水でも、"ミネラルウォーター"として販売することが認められているからである。 そう、日本においてはミネラルウォーター、イコール天然水のことではない。

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